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~新型コロナと共存しつつ、社会経済活動を行っていくために、感染拡大を予防する「新しい生活様式」の取組を定着することが重要です。一緒に取り組んでいきましょう~

#348 「コロナ滞納」でピンチ!日本の大家さんの立場が圧倒的に弱いワケ

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コロナの影響で収入が減少した人が、家賃を支払えなくなるケースが出てきています

 新型コロナウイルスの感染拡大は、経済に大きな影響を与えている。これに伴い、職を失ったり、収入が減少したりした人が「家賃」を支払えなくなるケースが増えてきている。家主側の訴訟代理人として数々の賃貸トラブルを解決に導いてきた司法書士の太田垣章子氏がコロナ禍で家主が直面している課題と、対策すべきことを解説する。

 

● コロナ禍の「家賃滞納」で 家主の生活は守られるのか

 コロナウイルス禍で、今までの生活は一変しました。人々の外出自粛が求められ、経済に極端なブレーキがかかりました。売り上げが下がり苦悩する会社経営者、先が見えないことから解雇を言い渡される被雇用者、店舗営業ができないために、収入が途絶えてしまった自営業者……。苦境に陥る人はますます増加していますが、新型コロナウイルスが収束する気配はありません。

 リモートワークで対応できる業種も限られますし、しかもそのリモートワークですらできることに限界があります。リーマンショック後の不況とは比べものにはならないくらい、経済は落ち込むでしょう。世界中が不況になっている訳なので、回復には相当な時間がかかることは容易に想像できます。おそらくこの先、完全に元の生活に戻れることは、まずないのではないでしょうか。

 そこで人々にのしかかってくるのが、固定費の支払いです。収入が途絶えたとしても、払わねばならないもの。その最たるものが、家賃ではないでしょうか。これに関して、アメリカやドイツなど海外では、いち早く「家賃を払わない賃借人に対し、明け渡しの手続きをすることを禁止」といった法が整えられました。この背景には、海外は日本ほど法が賃借人保護に偏っていないことがあります。

 日本の借地借家法は遠い昔に整備されたもので、その後、時代が大きく変わっても、根幹のところは何も変わっていません。「家主=金持ち、賃借人=お金がない」といった、大昔の感覚をそのまま引きずっています。そのため仮に家賃を滞納されたとしても、家主側が訴訟を提起するためには家賃の3カ月分程度の滞納額が必要で、「貸主・借主間の信頼関係が破綻」しなければ裁判官は家主側に味方をしてくれません。

 

また、交渉で退去してもらえなかった場合、訴訟提起してから最短でも4~5カ月かかってしまいます。つまり滞納の期間が3カ月、訴訟手続きに4~5カ月かかるので、トータルで7~8カ月を要することになり、結果、その間の滞納賃料を請求しても回収の確率は非常に低く、家主側は泣き寝入りすることが多いのです。こうした場合、融資を受けて賃貸業をしている家主は、ローン返済を手元の資金から用立てないといけません。かなりの出費になりますが、それでもいまだに借地借家法は大きな改正に至っていないのです。

 一方、海外では「貸す側の権利」も守られています。国や州にもよりますが、賃借人が家賃を払わなければその翌日に明け渡しの手続きができたり、荷物を放り出して住めないようにしたりすることも許されているようです。明け渡し手続きをした場合には、滞納してから1カ月ほどで警察がきて退去させられてしまうこともあるようです。そのため、コロナウイルス禍の不況では家賃の支払いが厳しくなると同時に、住まいを奪われるという可能性もあります。日本みたいに、のんびりはしていられません。だから各国は、いち早く法整備に動いたのです。

 アメリカでは滞納に関しての手続きを禁じる代わりに、家主側のローンの支払いを猶予したり、賃借人側の支払い猶予を認めたりもしました。これは今まで通り家賃滞納で追い出してしまえば街に人があふれ、さらに感染が広がることを懸念したのでしょう。

 日本では国土交通省が3月31日に、「店舗オフィスの家賃に対し、家主側は寛容な対応を」と要請しました。しかし、そこに家主側のサポートは全くありませんでした。そしてその後、賃借人側の範囲は、居住用にも広げられ、ようやく家主側の固定資産税に関する免除などの対策が発表されましたが、海外のようにまだ法整備は整えられておらず、融資のローン返済に関する猶予が法で認められている訳ではありません。

● 家賃支払い猶予を受け入れられない 家主の経済事情

 すでに店舗オフィスだけでなく、居住用についても「家賃減額、猶予、免除」の要求を受けた家主がたくさんいます。賃借人側は国交省の要請を追い風とし、かなり強気で要求を申し入れているような印象を受けます。もちろん中には、本当に苦しい店子もいるのでしょう。しかし、「言った者勝ち」のような風潮があるのも事実です。

 また、本来このような法的な交渉は弁護士などの有資格者しか行うことが許されていませんが、「減額請求しますよ、下がった額の25%を報酬としていただきます」といったビジネスを始める輩も出始めました。これでは家主側は、たまりません。

 ある海外の投資家は「皆コロナの被害者だから」と、減額請求される前に「家賃6カ月分を猶予する」と申し入れました。これは自分も苦しいが、このような時は助け合わなければならないから、という考えだそうです。とても崇高な精神だと思いますが、全ての家主にこのような対応が当てはまるとは思えません。

 家賃支払いの猶予は、ローン返済の猶予とセットでなければ、家主側の経済状況がひっ迫してしまいます。家賃減額・免除した額に応じて固定資産税が50%になる、免除されるとしても、その程度では家主側の損失を補填できるものではないのです。もちろん困窮する賃借人を配慮する気持ちがあったとしても、親から受け継いだ物件などで、すでにローンの返済が全て終わっているようなケースを除いては、家主側もそう簡単に請求を受け入れるわけにはいきません。

 

● 「支払い猶予」を請求された家主が 絶対してはいけない2つのこと

 このような状況下で、家主側が賃借人からもし家賃の免除、猶予などを請求された場合、絶対にしてはいけないことは「スルー」と「即ゼロ回答」です。なぜならば、家主側として一番困るのは、交渉が決裂して家賃を滞納され、最終的にどうしようもなくなり、訴訟提起せざるを得ないことです。

 緊急事態宣言以降、裁判所はこの期間中の期日を全て延期しました。つまり、訴訟を提起しても、いつ審理されるかは緊急事態宣言が解除された後にしか分からないということです。

 また国交省からの要請もあり、いつも以上に「明け渡し判決」を言い渡すのに裁判官も慎重になるでしょう。仮に判決が言い渡されたとしても、それでも退去してもらえないときには強制執行となりますが、現段階で執行官は居住用の場合、「次の転居先がある人にしか執行しにくい」と言っています。逆を言えば、次の転居先がない場合、強制執行はされないため、家主側は家賃ももらえず、明け渡しもしてもらえないということになります。

 通常であれば完全明け渡しまで最初の滞納から7~8カ月かかるところが、このコロナウイルス禍では1年超えも十分に考えられます。だからこそ訴訟手続きではなく、「話し合う」必要があるのです。家主側の言い分として「もうけていた間、家賃を多めに払ってくれていた訳ではないのに、コロナですぐに減額請求というのはおかしい」ということもあるでしょう。「そこまで自転車操業だったのか」「貯金で払えないものなのか」と言いたくなるかもしれません。ただ、正論を振りかざして話し合いができなくなれば、最悪、訴訟手続きを取らざるを得なくなるので、まずはしっかり相手方の言い分を聞きましょう。

 加えて、住宅確保給付金や事業者側への融資や助成金はたくさんできてきています。横須賀市をはじめ、各自治体独自で家賃補助を打ち出しているところもあります。当の本人がこうした制度を知らない場合もあるので、家主側はそれぞれの状況によって適切な情報を提供していきましょう。時として、申請をサポートするのもいいかもしれません。経済産業省のウェブサイトでは、さまざまな経済的支援策が、毎日のように更新されています。その情報を伝えた上で、それでも家賃を減額してほしい状況なのか否かを、冷静に話し合って判断していきましょう。

 本稿執筆時点(4月下旬)では、家主側の支援策も必要であると、与野党が審議しています。近いうちに何らかの支援策ができるはずです。入居者に退去してほしくないと思う家主なら、ある程度の妥協案でひとまず合意して書面を交わし、家主側の支援が明確になるまでの時間稼ぎをしてみるというのも必要なのかもしれません。

 

● 経済への影響は長期化必至 「コロナ滞納」は今後も増加か

 新型コロナウイルスは世界経済に年単位でダメージを与えていくことが予想されます。とてもじゃないですが、少し鎮静化したからといって経済がV字回復するとは思えません。必然的に家賃を払いづらくなる人は、今後も増えてくるはずです。

 3月末に長年空き家だった家賃4万円の栃木県の戸建てに、東京から一家で引っ越してきたというケースを聞きました。おそらく仕事を失ったか、収入が減ることを恐れ、長期戦になることを覚悟して、少しでも固定費を下げようと移住したのだと思います。この家族のように、滞納することなく、自らのできる範囲で迅速に行動に移している賃借人もいます。この状況がいつまで続くかわからないからこそ、先を見据えて行動していく必要があるのです。

 リモートワークをしている中で、大きなオフィスが必要でないことが分かった会社もあるでしょう。今まで出張して打ち合わせしてきたことも、ウェブ会議で対応できるのが分かりました。人を雇わなくても、部分的に外注することで問題ない場合もあります。このように働き方の常識が大きく変わる中、騒動が収束したときに、全てが元に戻るでしょうか?

 そう考えるならば、目先の数カ月の支払いよりも、この機会に自分の人生をどう生きていくのか、どう働いていくのか、手放せるもの、譲れないもの、それらを考えることの方が先決だと思います。自分の人生をコーディネートできる、そして行動できる人は、きっと家賃滞納はしないのではないでしょうか……。長年賃貸トラブル解決の現場にいる者として、そのような印象を持っています。

 そして、もし賃借人側も交渉したいと思うのであれば、このコロナウイルス禍で貸主も借主も大変な思いをしていることをしっかりと認識した上で、減額請求をする書面をただ家主に送りつけるような乱暴なことはせず、今後も双方の信頼関係を築けるような話し合いができればいいなと願います。

筆者は 章(あや)司法書士事務所代表 太田垣章子氏より