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#342 なぜ建設現場は緊急事態宣言では止まらなかったのか、工事中止の影響は?

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建設現場の感染対策対応の動きが鈍い理由は、業界特有の構造が挙げられる

 新型コロナウイルスによって、ビジネスの現場は混乱に陥っている。それによる影響は、例に漏れず建設現場にも及んでいる。内勤者・外勤者問わず感染者が出ているうえ、亡くなったゼネコン社員もおり、工事中断の動きが各社広がりつつある。しかし、働き方を変えようという動きは、他の業界に比べて全体的に鈍いのが現実だ。なぜ建設現場は緊急事態宣言でも止まらなかったのか、建設業界特有の構造などから、これから何が起きてくるのかを解説する。

 

●緊急事態宣言では止まらなかった建設現場

 4月7日に発令された緊急事態宣言に伴い、外に出る人の数はかなり減り、企業ではテレワークなど在宅勤務が急速に広まっている。それは建設業も同じで、ゼネコン各社は内勤者を中心に在宅勤務を推進している。

 ところが、緊急事態宣言後も建設現場は稼働中のところが多かった。国交省は「受注者から一時中止などの申し出があれば、できるだけ応じる」姿勢を見せてはいる。だが、国交省から一時中止などを受注者に呼び掛けてはいない。あくまでも「受注者からの申し出があれば」の姿勢なのだ。

 それは、国交省が公開している通達にも現れている。通達(4月16日時点)には「受注者から工事等の一時中止や工期又は履行期間の延長(以下「一時中止等」という。)の希望がある場合には……」と記載があり、この記述こそが国交省の姿勢を裏付けているといえる。

 なぜ、国交省の姿勢は「受注者任せ」なのか。それは「責任を負いたくないから」だろう。発注者や施主から一時中止を申し出るとすると、工程が遅れることによる責任は発注者や施主にいく。マンション工事であれば入居者への説明も必要になるだろう。その責任から逃れたい。だから、あくまで「受注者任せ」なのだ。

 それが影響しているのか、緊急事態宣言が発出された後も、現場を一時中止にする流れはあまりにも弱かった。一時中止にする方針をいち早く表明したのは西松建設東急建設である。会社の方針としてトップが表明し、ホームページにも記載されている。いずれも社員が新型コロナウイルスに感染したことが背景にあると思われる。ただ、一時中止されるのは、もちろん「発注者との協議を行い了承が得られれば」の話である。

 その他のゼネコン各社は一時中止することに後ろ向きの姿勢であったが、事態は一変する。

 4月13日、清水建設の社員3名が感染し、うち1名が亡くなったことを公表した。その後、清水建設は方針を撤回して、緊急事態宣言の地域にある現場を一時中止とする方向で発注者と協議に入ったことを表明している。これにより、ゼネコン各社の動きが注目された。


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清水建設の件で動いた各社の対応

 4月30日時点での各社の対応を以下にまとめた。緊急事態宣言の範囲が全国に拡大された4月16日を区切りに、それ以前を「対応1」、拡大以降を「対応2」とした。


 清水建設の一件と、緊急事態宣言の対象地域の拡大により、各社工事を中断するケースが増えてきているのが分かる。だが、なぜ最初の7都府県を対象とした緊急事態宣言でこの決断をすることができなかったのか、疑問に思う人もいるだろう。その要因の1つとして、前述した国交省の姿勢が挙げられるが、さらに建設業界特有の構造があるといえる。

 

●建設業界特有の構造

 建設業特有の構造として、「請け負け」がある。もともと、ゼネコンは「請負業」でもあり、無理難題を押し付けられてもそれをどうにかして工期内完成をすることが絶対とされている。たとえ、仕様発注であったとしても、だ。

 「発注者の指示には従う」姿勢が長く続いてきている。発注者からすれば「受注者任せ」にできるので、責任を逃れることができる。それが、今回の新型コロナウイルス感染拡大で顕著になってきているのだ。

 受注者任せなら、責任を受注者に負わせることが可能だ。もともと何かあれば受注者であるゼネコンや工務店に責任がいくのが、建設業界である。ゼネコンが発注者に反論しても「請け負けでしょ」の一言で撃沈してしまう業界なのだ。

 発注者も、その事情をよく理解している。自ら(発注者側)が責任を負わなくて良い方向に向かわせることができる。それは前述した通達にもよく表れているといえるだろう。

 一方で、ゼネコン側には意思決定の権限はない。いくらゼネコン側が「感染者がかなり増えているので工事を一時中止したい」と申し出ても、発注者側がNo!と言えば、それに従わざるを得ないのだ。

●現場が止まる余波、これから何が起きる?

 現場が止まることによる余波は、特に民間の建設プロジェクトで顕著になっていくと考えられる。マンション建築工事では工事の一時中止に伴い、入居者の入居時期が遅れる可能性が出てくる。その場合、入居者への説明はもちろん必要だ。新型コロナウイルス感染拡大が原因であれば理解は得やすいとみられるが、全入居者から承諾を得られるかどうかは不透明である。

 この背景から、マンション工事を発注しているデベロッパーの中には、工事の一時中止の申し出がゼネコンから寄せられても認めない可能性がある。ゼネコン側もその背景をよく理解しており、申し出をしやすい心情とは言えないだろう。

 また、現場が止まることで作業員が別の現場に異動して戻ってこないケースも考えられる。各現場で作業員不足が大きな問題となっており、工程遅延のリスクの1つとなっている。

 ただでさえ作業員を思うように確保できない中で現場を止めてしまったら、作業員は別の現場に移る。一時的な処置だからいずれ戻ってくるだろうと思う人がいるかもしれないが、戻ってこないケースは大いにありうる話だ。これに乗じて前の現場より報酬が高く設定された、なんてことにもなれば、戻ってくる可能性はゼロに近づいていく。そうすると、現場の工程遅延は一時中止によるものだけでは済まなくなるだろう。

 一方で、公共工事においては申し出があれば応じると国交省は表明していることから、ゼネコン側から一時中止を申し出ることによる悪影響は少ないと思われる。一時中止に伴う工程遅延や費用増大については設計変更という形で認められる可能性が大きいからだ。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大は、受注者側の責に帰するところではない。受注者の責任でなければ工期延伸や費用増大は認められる要因となり得る。そういう意味では、公共工事では利益は少なくなることはあれど確実に確保できるといえるだろう。