コストライフの防災ブログ改め「新しい生活様式(New Life Style)」ブログ

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#297 コロナ対策の「風俗除外」がダメだった本当の理由。女性活躍度121位の国の新型コロナ対策

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写真は新宿・歌舞伎町

 コロナ対策の休校要請で休業する保護者への休業補償で、一時は対象外とされた接客飲食業・風俗業だが、「職業差別」「命の選別」と批判され、一転、対象に含まれることで決着した。7日に発表された緊急経済対策の現金給付でもこれらは含まれるとされ、問題は、落着したかに見える。

 だが、この除外措置が本当にダメだったのは、差別の持つ感染拡大効果に気づいておらず、拡大防止に逆行しかねなかった点だ。今後の感染対策のために、「風俗除外」措置における3つの欠如を確認しておきたい。3つに共通するのは、差別や偏見の破壊力への認識の欠如だ。

 

◆差別は感染をダダ漏れにする

 事件の発端は、2月27日の安倍晋三首相の突然の「一斉休校」要請だった。これに対し、働く母たちを中心に、子どもの世話で働けなくなり生活が成り立たないという困惑の声が高まり、政府は3月1日、保護者に対する休業補償を発表した。だが、ここでも「接客飲食業」「風俗関係」を補償対象から除いていたことがわかり、批判を招いた。

 除外の理由は、この措置の基本的な財源となる「雇用調整助成金」(不況の時に雇用を維持した会社に適用される助成金)の対象から、「接待飲食等営業」を含む「風俗営業関係事業主」が除かれているからだ。これらが暴力団資金洗浄に利用されたことがあるから、とも説明されている。だが、ここでは「感染対策」というそもそもの目的が忘れられている。

 欧州の都市で下水道が整備されたのは、19世紀、産業革命で都市に集中した人々の不衛生や貧困を放置した結果、感染症が広がり、貴族や富裕層にも及んだからだという。感染症は階級・階層を問わず人を襲う。感染対策から外される層ができてしまうと、病気はそこから広がり、皆が助からなくなる。感染対策は職業や立場を選ばずに対象にすることが、重要ということだ。

 差別は感染をダダ漏れにする、という基本が、政権の中枢に理解されていなかったということ。それが第1の欠如だ。

 

差別意識を政府が容認・助長

 二つ目は、そのような「差別・選別」を容認・助長しないことが政府の務め、という意識の欠如だ。

 批判が高まった4月3日、加藤勝信厚労相は「雇用関係の助成金全般で、風俗業関連は支給しないことになっており、休業対応の支援金も同様の扱いとなっている。現在、その取り扱いを変える考えはない」(NHKデジタル版)と述べてしまった。ここできちんと謝罪し、感染を防ぐために差別・選別がマイナスになることを国民に説明していれば、感染対策への理解を人々に浸透させる好機となったはずだ。

 案の定、その2日後の5日には、テレビ番組でタレントの松本人志氏が「水商売のホステスさんが仕事休んだからといって、普段のホステスさんがもらっている給料を我々の税金では…。俺はごめん。払いたくないわ」と発言。6日には「高須クリニック」の高須克弥院長が、松本氏の発言についてツイッターに「僕だって、僕の税金から払ってもらいたくない。何がいけない?」(いずれも「東スポWEB」から)と投稿。これに追随するかのように、キャバクラユニオンツイッターなどに「ただ座っているだけで稼げる仕事で補償とは」といった趣旨のコメントが相次ぐことになる。

 抑制すべき局面で、要人の姿勢がバルブを開いてしまったのだ。

 私はこの2年ほど、キャバクラで働く女性たちに聞き取り調査をしてきた。その仕事は、顧客獲得のために手紙やメールをこまめに送るなど、接客の場以外での労働も多く、売り上げを増やすための飲酒で体調を崩す例もあるなど「座っているだけ」とは程遠いものだった。

 キャバクラユニオンには、ノルマの強要、罰金、セクハラなど負担の重さを浮かび上がらせる相談も多数寄せられている。「顧客」の上から目線や、「女性の仕事なんかたいしたことない」という偏見が、実態の理解を阻んでいる。

 

今回は、さすがにマスメディアの多くがさほど同調せず、最悪の事態は免れたようだ。だが、こうした言説が横行すれば、支援を必要としているホームレスや、低所得層、障害を持つ人々などの社会的弱者を感染対策の外に置いても構わないという空気も作られかねない。それでは感染拡大は防げない。

◆女性の労働実態への偏見と無知

 3つ目の欠如が、このような女性の働く現場への知識にもとづいた政策だ。コロナ対策にとって、これは大きな障害になる。「濃厚接触を断つ」という対策の特徴から、対人サービス系の産業の働き手への支援は不可欠であり、女性はこうした産業で多数を占めるからだ。

 総務省経産省による2016年の「経済センサス・活動調査」では、グラフのように、「医療・福祉」「宿泊業・飲食サービス」「生活関連サービス業・娯楽業」という対人サービス系産業が、女性が多い産業のトップ3になっている。製造業派遣の男性が脚光を浴びた2008年のリーマンショックの際とは様変わりだ。

 すでに、医療・福祉の働き手は感染者や高齢者のケアで肉体的負担が急増し、後の二つの産業の働き手は感染拡大防止のため休業要請の対象となり、雇用主とともに経済的負担に直撃されている。

 


 しかも、働く女性の過半数は時給制の非正規であり、ここでも、休業は即、収入減と貧困を意味する。

 首相の突然の「一斉休校要請」は、まさに、そうした働く女性の実態への無知が招いた政策として、ワーキングマザーを直撃した。それは、働き手は仕事以外に、家族の世話も抱えているという単純な事実への無知だ。ひとり親の自助グループ「しんぐるまざあずふぉーらむ」のアンケート(4月2日~5日実施)でも、これらの感染対策の影響で47%が減収、7%が収入がなくなると回答、一斉休校で休んだ人のうち、休業補償がもらえたのは23%にすぎない。

 また、緊急経済対策の目玉とされた現金給付も支給は「世帯主」の収入が基準で、共働き家庭の妻の月収が激減しても、「世帯主」でないことが多いため補償の対象にはなりにくい。給付対象も「世帯主」だ。妻がDVの被害にあい、住民票を移さないまま子供をつれて逃げている場合は給付を受け取れない。「世帯主が一人で一家を扶養する」という、少数派となった伝統家族が相も変わらずモデルになっている弊害だ。

◆女性活躍度121位の国の新型コロナ対策

 国連のグテーレス事務総長は4月9日、新型コロナ問題が男女平等の流れを逆転させかねないとする報告書を立ち上げたと発表。女性のリーダーシップと貢献を中心とした対策を推奨しているとした。ここでは、世界の女性の60%近くが非正規や零細自営などの非公式な形で働き、収入も貯蓄も少なく、貧困に陥るリスクが高いこと、企業の閉鎖で何百万人もの女性の仕事が消えたこと、学校閉鎖や高齢者のニーズの増加の結果、女性の無給の介護負担が大幅に増えていること、などが指摘されている。

 日本の場合、とりわけこうした視点からのコロナ対策が必要だ。女性の意思決定への参加度を示す「女性活躍度指数」のランキングで2019年、日本は、過去最低の121位に下がったが、足を引っ張っているのは政治家比率の低さだ。そこでは、女性が従事する仕事への偏見や、家族のケアを抱えて働くことが多い女性への視点の不足で、女性も含めた対策が身とされがちになるからだ。

 「風俗除外」は、そんな土壌から生まれた。政権が、そして私たちが、このような偏見・差別が感染対策に及ぼす弊害に向き合わなければ、今後も形を変えて同様の事態が繰り返され、対策は的を外し続けるだろう。

 

<文/竹信三恵子

竹信三恵子
たけのぶみえこ●ジャーナリスト・和光大学名誉教授。東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員論説委員(労働担当)、和光大学現代人間学部教授などを経て2019年4月から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)、「正社員消滅」(朝日新書)、「企業ファースト化する日本~虚妄の働き方改革を問う」(岩波書店)など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。