コストライフ㈱の防災ブログ

~命を守る行動を~

#192 新型コロナ「突然の休校要請」のお粗末さに抱いた「ある疑念」

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臨時休校が始まる
突然の臨時休校要請

 新型コロナウイルスの対策で、令和2年2月27日に安倍晋三首相が全国の小中高校の臨時休校の要請を出した。

 

 そのわずか2日前の25日に、文部科学省からは"臨時休校の範囲や期間については自治体の判断にまかせる"旨の通知を出していたのに、なぜ突然、全国一律4月までの休校を要請することになったのか。

 その理由として「子どもを守るため」が挙げられているが、それにしては幼稚園は対象外、そして保育所学童保育(放課後児童クラブ)は原則開所を求めるのだという。この矛盾は何だろうか。

 このことについて見落とされている論点がありそうなので、急ぎ提示してみたい。重大な物事には様々な側面がある。ここで示すのも一つの論理の筋にすぎないが、どうもありそうに思えてならない。一つの仮説として読んでほしい。

 

2月26日に起きていたこと

 なぜ突然、27日に安倍首相は、全国すべての小中高校と特別支援学校について休校を要請したのか。

 27日の前日、2月26日に何があったかを思い起こしてみよう。

 まず思いつくのがこの日、安倍首相が、多数の人が集まる全国的なスポーツ・文化イベントについて2週間の自粛を求めたことである。

 このことでJリーグプロ野球オープン戦、大小様々なコンサートや催しの中止が相次ぎ、全国に混乱が広がった。

 このことは広く報道されたから知らない人はいないだろう。

 だがその背後で、もう一つ大事なことが行われていたことを見逃してはならないと思う。

 2月26日。この日は大学入試の前期試験2日目だった。

 そう。自粛を要請している安倍首相の足下で、個別のコンサートなどとは比較にならないほどの大イベントを実施していたのである。

 筆者もその入試業務に参加していた。用心のためスマホの電源を切っていたので、イベント自粛要請を知ったのはその日の夜だった。

 知った瞬間はショックだった。

 ――だまされた、と。

 コロナの感染がそれほど重大な事態になっているのなら、入試では感染予防をもっと徹底して行わねばならなかったのではないか。終わった後で事態が切迫していることを知らされてももう遅い。

 

前期入試と感染予防

 誤解されないように急いで補足せねばならないが、筆者はここで、今回、大学は入試を中止すべきだったと主張しているのではない。また自分が感染したかもなどという、さもしいことをいっているのでもない。

 まず、大学にとって入試は要(かなめ)中の要。おいそれと中止することはできないものだ。

 そして大学はこの国の人材育成の要でもあるから、入試の実施はただ大学の利益ということだけでなく、この国の安定的な運営にとって不可欠のものだ。大学入試は多少のリスクはあっても行わねばならない。

 だから大学関係者は、毎年、1年をかけて入試業務に取り組み、入試を通じた人材育成と、受験生たちの能力の見極め、厳正厳格な評価による適切な選抜の実現に一所懸命尽力するのである。このことは力説しておきたい。

 今回やらなければならなかったのは、入試の中止や延期などではなく、受験生たちがお互いに感染しないよう、細心の注意を払って体制を整え、実施することだった(そのためにはもしかすると1週間とか、1ヵ月の延期などは検討してもよかったのかもしれない)。

 だが受験生にマスクを配るとか、手洗いを励行するとか、そうしたことさえ十分に行われなかった。

 それどころか、今回のウイルスはあとになって感染していたことが分かることも多いようだから、今後感染が分かった受験生の情報は、同じ部屋にいた受験生にも速やかに伝わらなくてはいけない。

 自分自身の感染をも疑わなくてはならないからだが、そのための情報共有に必要な措置もとられていない。

大学入試は感染を拡大したか?

 国公立大学の入学志願者数は40万人を超える。それが全国各地入り乱れて受験する。密室で1日、多人数が缶詰めになる。食事も多くがそこでする。

 かつ受験は人生を左右するので、風邪を引こうが熱が出ようが参加する。

 まして今回の新型コロナウイルスについては検査体制が確立されていないので、受験生は自分が感染したのかどうかさえ知ることができないでいる。当然受験生に感染者は多数含まれているはずだ。

 同じことは、入試を実施する大学側にもいえる。監督者は受験生に直接接する。長い時間、密閉空間に一緒にいて、口頭で受験生に説明し、指示を与える。答案用紙を介した間接的な接触もある。もし監督者に感染者がいたら、この濃厚接触は受験生に多くの感染者を生み出す可能性がある。もちろん逆の可能性もある。

 だが幸いにして、受験生も監督者も不特定多数ではない。

 まして入試という場は秩序正しい場だから、様々な指示は出せ、受験生も監督者もそれを一律に守る。

 感染を防ぐことは工夫次第でかなり可能だったはずだ。だがその明確な指示が文科省からはでなかった。

 文科省から指示がなかった――というと、大学側の無責任を追求されそうだが、入試は全国一律で行うものなので、どうしても上の――要するに文部科学省の――顔色をうかがってしまう。

 まして大学に入っている情報も、一般のみなさんと一緒なので、まさか全国でイベント自粛しなければならないような状態とは思っていなかった。

 いやおそらく文科省自身もそうだったのだと推察する。文科省にも新型コロナの情報は十分には入っていなかったのではないか。

 文科省が必死で対応していたのは、例えば留学や留学生。たぶん入試のことまで頭にのぼらなかったのだろう。彼らがイベント自粛を知ったのも、我々と同じだった可能性すらある。

 ところが、26日に入試業務をやって、テレビやスマホをみると、まさにその裏側でイベント自粛を首相が呼びかけていた。官邸だけは何かを知っていて重大な決定を突然行った。だが今日まさにその大イベントをやってたんじゃないか――。

 恐る恐るハシゴを登ったら、そのハシゴが外されていたと感じた大学職員や大学関係者は筆者だけではなかったと思う。

 

いま必要なことは何か

 筆者の仮説がそろそろ分かっただろうか。

 筆者は事態をこう読む。

 2月25日、文部科学省は、北海道や千葉県で生徒や教師に感染者が出た事情をかんがみ、全国の自治体に通知をした。

 それは、一定の地域をまとめて臨時休校にする判断もやむを得ないこととして、各自治体の選択肢を広げられるようにするための適切な措置だったと思う。

 そして当然、感染がまだ広がっていない地域が多いのだから、そこにはすべてを休校にするような意図はなかった。

 他方で、この日、全国の大学では前期入試が始まった。

 翌26日はその入試の二日目である。

 ところがこの日、安倍首相は突然、スポーツ・文化イベントの2週間の開催自粛を宣言してしまったのである。

 イベント自粛を要請した首相の足下で、大学入試というとんでもない規模の全国イベントが行われている。

 そこではきちんとした感染予防策もとられていない。その理由はおそらく、新型コロナは厚生労働省マターなので、文部科学省にさえ情報がうまく伝わっていなかったからに違いない。

 思うに安倍首相はこの日、大学入試が行われていたことを知らなかったのではないか。

 ともかく、首相が自粛を要請しているそばで、40万人超の大イベントが無防備におこなわれている。

 気づいた官邸は慌てた。

 ここで必要な措置は、高校3年生を中心とした受験生たちの感染の確認と、その先の二次感染の防止である。そのためには最低限、受験生たちの1~2週間程度の外出自粛と、症状が出た場合の検査体制の確立が不可欠になる。

 ところが、官邸はこのことに気づきながら、受験生たちにその危険を知らせようともせず、むしろ隠そうとしたのではないか。

 高校3年生の登校自粛や予備校の臨時休校要請などを発表すれば、ただでさえ桜を見る会検事長の定年延長で政権に対する批判が強まっている中、さらなる批判は必至である、と。

 高校の休校だけでもこの事態はバレてしまうので、小中学校も一気に巻き添えにして全国一律、しかも4月までの臨時休校要請になったというシナリオだ。

 

学童保育は開校なのに予備校は閉鎖?

 筆者がこの仮説がどうもあり得るのではないかと思ったのは、本日の朝刊(朝日新聞2月28日付)にこういう記載があったからである。

 先ほど述べたように、小中高校と特別支援学校は休校。

 だが、保育ニーズに応えるため、保育所学童保育は「原則開所」。幼稚園も休園の対象外だという。

 ところがこれに対し、官邸幹部が、塾や予備校は「行ったら意味がない」と自粛を求める考えを示したのだと記事は伝える。

 子どもを守るためなら、幼稚園も保育所も閉園を要請すべきだろう。小学校が休校なら、子どもを持つ保育士も出勤できまい。ふだん通りの開所は無理だ。まして学童保育が開所するのに、なぜ塾や予備校は自粛なのか。なぜ「行ったら意味がない」のか。

 それはやはり、今回の入試実施がもたらした感染拡大のリスクに気づいたからだと思うのである。

適切な対処を望む

 だがそれに気づいたなら、やるべきことは小中高校の全校休校ではない。それはあまりに影響が大きい。高校3年生の授業の休講と予備校の一部休校、そして受験生たちの一時外出自粛だけですむはずだ(むろん私大受験などは認める)。

 先ほど述べたように、大学入試は中止するわけにはいかないものだから、きちんと説明すればこのことで実際には批判は起きなかったはずである。

 もし私が立てたこのストーリーが本当なら、政府には今一度立ち止まって、小中高全校休校などという恐ろしい実験は撤回することをうながしたい。それはあまりに影響が大きい。新型コロナウイルス以上かもしれない。

 とともに、このストーリーが間違ったものだとしても、高校休校よりも前に、まずは受験生たちの感染の有無の把握及び、そこからの二次感染の防止策こそが大切なのだと思う。

 受験生および、受験生を抱える家庭の家族たち、そして高校や予備校、受験を実施した大学もふくめて、今回の受験で新型コロナに感染したリスクをよく考えて、この先の行動を適切に決定してほしいと思う。

 筆者自身もしばらく自宅で様子を見るつもりである。

 各自ができることをきちんとやっていくことが、感染拡大を防ぐ要なのだと思うから。

山下 祐介(首都大学東京教授)