コストライフ㈱の防災ブログ

~命を守る行動を~

#168 逗子の斜面崩落事故 マンション住人が責任を負う可能性も

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崩落した神奈川県逗子市の道路脇の斜面。女子高生が巻き込まれ亡くなった

 2月5日、神奈川県逗子市の道路で土砂崩れが起き、18歳の女子高生が亡くなるという痛ましい事故が起きた。道路脇にある擁壁上の土ののり面が崩れたようだ。こののり面は、あるマンションの敷地となっており、区分所有者が共有している。傾斜地にあるマンションは少なくないので、自分のマンションで同じ事が起きるのではないかと心配になる人も多いだろう。こうした事故で被害者に対する損害賠償責任を誰がいくら負担するのか、簡単に解説したい。

 民法には「土地工作物責任」という制度がある。土地の工作物の設置または保存の瑕疵によって損害を生じた場合、占有者(二次的に所有者)が責任を負うというものだ。「土地の工作物」というのは建物などが典型的だ。のり面下の石積みの擁壁は工作物に当たるが、土ののり面自体が「工作物」なのか若干疑問はあるものの、宅地造成で作られたものであれば該当する可能性が高い。

 設置または保存の瑕疵は、判例的には「工作物が通常有すべき安全性を欠く」ことをいう。要するに、土ののり面に欠陥があったり、崩れそうなのに放置したりすることである。地震や台風の後に事故が起きたわけではないので、土ののり面に瑕疵があったことは十分に考えられるだろう。

 いずれの要件もクリアになると、土砂崩れの原因箇所の占有者が「土地工作物責任」を負う。のり面が原因箇所である場合は、マンションの管理組合または区分所有者全員が占有者となる。なお、のり面が工作物に当たらない場合も、その管理に過失があれば、管理組合は不法行為責任を負うことになる。

 もちろん、のり面に全く瑕疵がない場合はマンション側は土地工作物責任を負わない。この場合、被害者側は市道を管理する逗子市に賠償責任の追及を検討することになるが、マンション側に対する請求よりも格段に難易度が高くなる。

 さて、仮にマンション側が損害賠償責任を負うとして、その損害額はいくらになるか。人身事故の損害額は大体の基準が定まっている。18歳未成年者の死亡事故による損害額は7000万円~8000万円が相場だ。多くの事案では、訴訟ではなく示談交渉で解決するが、訴訟となった場合は、遅延損害金や護士費用によって、賠償額が1億円を超えることもある。

 賠償責任保険が使用できず、管理組合にカネもないということであれば、区分所有者が全員で支払うしかない。1億円を区分所有者で負担すると、単純計算で、50戸のマンションであれば1戸当たり200万円。100戸だと100万円になる。徴収に応じない人がいれば他の区分所有者でその分を立て替えることになる。それでも支払いができなければ、被害者側は各区分所有者の部屋を強制執行することも、給料を差し押さえることもできる。

■管理組合にお金がなければ区分所有者が負担

 こうした事態を想像すると事故後すぐにマンションを売って出て行きたいという区分所有者もいるだろうが、それで責任を免れるかは難しい問題である。責任を免れるケースもあり得るが、その場合、買主が責任を負担することになる。

 マンション側で損害賠償金を支払うとなると、必ず、管理会社に責任を転嫁できないかという声が出てくる。実際に敷地の管理をしているのは管理会社なので、管理契約の内容や管理実態によっては、一定の損害を負担させることも不可能ではない。ただし、明らかな落ち度がない限り、素直に支払いに応じる管理会社があるとは思えないので、多くの事案で訴訟提起が必要になるだろう。

 損害賠償責任の概略は以上の通りだが、実際の被害弁償までは難しい問題があり、かなりの時間が掛かることが予想される。土砂崩れの原因特定には専門的知識が必要であるし、明確に原因が特定できるとは限らない。原因特定ができてもそれが工作物の瑕疵や管理の過失に当たるのかも争いになる。管理組合の意思決定にも時間が掛かる。訴訟となれば、解決まで1~2年経ってもおかしくない。しかも、事故物件となるので、資産価値は低下する。

 今回の事故を他山の石として、直ちに敷地の安全性について点検することを願いたい。